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東京高等裁判所 昭和63年(行コ)57号 判決

控訴人

川崎初男

右訴訟代理人弁護士

恵崎和則

関次郎

被控訴人

社会保険庁長官北郷勲夫

右指定代理人

武田みどり

村山行雄

佐藤健治

加治佐昭

簗瀬雅一

神田弘二

東幸邦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  控訴代理人は、「(1)原判決を取り消す。(2)被控訴人が控訴人に対し、昭和五六年一月一九日付けでなした船員保険法による職務外の事由による障害年金支給処分を取り消す。(3)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり補正するほか、原判決(本誌本号〈以下同じ〉)事実摘示(原判決二丁表九行目(79頁1段27行目)から一一丁裏四行目(81頁3段2行目)まで。)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決四丁裏七行目の「原告は、」(79頁4段9行目)の次に興生建設の工務課長、工事課長の職務に就いていたところ、」を加え、同五丁裏四行目の「五月になり、かつ」(80頁1段4~5行目)を「五月一〇日ころになり、五月一二日には第一興生丸が留萌での作業のため出航し、両船が船川港で作業したのは二日間だけであったことや、」に、同六丁表六行目の「船員として乗船し、」(80頁1段23行目)を「乗船し、搭載クレーンによる玉石を海中に投入する作業が終了後、クレーンのバケットですくいきれなかった玉石を手作業で海中に投入するため、」にそれぞれ改める。

2  同六丁表九行目(80頁1段27行目)の次に改行し、「控訴人は、自宅のある神戸に戻り、治療に専念したいと希望したが、船員のストライキの収拾、元請会社との請負代金の交渉等の職務を果たすため、神戸に戻ることなく仕事を続け、同年七月一五日、神戸中央市民病院で診察を受け、同年八月八日、同病院に入院し、同年九月一九日退院した。その後しばらくは、本社で交渉に関する業務に就いていたが、人手不足のため、再び地方の作業現場への出張を命ぜられ、従前と同じテトラポット据え付け等の現場作業にも就くようになり、本件疾病をいっそう悪化させ、冠動脈の狭窄率が九〇パーセントにまでなり、昭和五三年一〇月二四日、大動脈、冠動脈バイパス手術を受けるに至った。」を加える。

3  同六丁裏七行目の「発症し」(80頁2段7行目)の次に「、その後も同様の労働に就いたため本件疾病を悪化させ」を、同七丁表八行目末尾(80頁2段24行目)に「仮に、有力な原因とまではいえないとしても、控訴人は、前記の過激な労働に従事したため、冠状動脈硬化症等の基礎疾病を誘発または急激に憎(ママ)悪させ、本件疾病の発症を早めたのであるから、職務と基礎疾病とが共働の原因となって本件障害の結果を招いたもので、本件障害は職務上の事由のよるものと解すべきである。控訴人は、かかる結果を予知せず過激な労働に従事し続けたため、右結果を招いており、控訴人には災害補償の趣旨に反する特段の事情はない。」をそれぞれ加える。

4  同八丁表一一行目の「船員として」(80頁3段29行目)を削除し、同丁裏一行目の「発症したこと」(80頁3段30~31行目)の次に「、控訴人が昭和五二年五月一二日以後も仕事に就き、同年七月一五日神戸中央市民病院で診察を受け、同年八月八日同病院に入院し、同年九月一九日退院したこと、冠動脈の狭窄率が九〇パーセントにまでなり、昭和五三年一〇月二四日、右病院で大動脈、冠動脈バイパス手術を受けるに至ったこと」を、同九丁裏一一行目末尾(81頁1段13行目)に改行し、「控訴人が本件疾病発症後に就いた仕事は、それ以前とほぼ同様か、より軽度なものであり、昭和五二年七月以降昭和五四年一月までは、昭和五三年五月、六月を除き、少なくとも自宅から通勤できる範囲内で仕事をしていたものである。」をそれぞれ加える。

第三  証拠

証拠については、本件記録中の書証目録、証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  当裁判所も、本件疾病が職務上の事由によるものとは認められず、控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の理由(原判決一二丁表二行目(81頁3段9行目)から二五丁裏三行目(84頁4段6行目)まで。)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一二丁裏一行目の「船員として」(81頁3段25行目)を、同一三丁裏四行目ないし六行目(81頁4段27~30行目)をそれぞれ削除する。

2  同一三丁裏一〇行目の「第四号証」(82頁1段2行目の(証拠略))の次に「、原本の存在及び成立に争いがない乙第一〇号証並びに弁論の全趣旨」を、同一一行目の「原告」(82頁1段2行目)の次に「(大正一五年七月一〇日生)」をそれぞれ加え、同一四丁表三行目の「七月一二日」(82頁1段7行目)を「七月一五日」に改め、同四行目の「診断され、」(82頁1段8行目)の次に「同年八月八日同病院に入院し、」を、同六行目の「認められ、」(82頁1段11行目)の次に「冠動脈起始部に五〇パーセント程度の狭窄が認められたが、他は軽度で、手術を要するような有意の狭窄は認められず、同年九月一九日退院した。しかし、」をそれぞれ加え、同丁裏二行目の「分枝直後」(82頁1段21行目)を「分岐直後」に改め、同五行目の「部分を除く。)、」の次に(82頁1段26行目の(証拠略))「第一〇号証、」を、同一五丁表六行目の「(第一、二回)」(82頁2段11行目)の次に「、当審における控訴人本人尋問の結果」を、同丁裏二行目の「これに」(82頁2段21行目)の次に「控訴人が当時五一歳であったことや」をそれぞれ加える。

3  同一五丁裏七行目の「そこで」(82頁2段28行目)から同一六丁表三行目の「認められなければならない。」(82頁3段7行目)を削除し、同一七丁表一行目の「同証言」(82頁4段2行目の(証拠略))を「原審における証人山本の証言、当審における証人味噌野清の証言」にそれぞれ改める。

4  同一七丁裏六行目の「兼船員」(82頁4段24行目)を削除し、同一一行目の「四ないし八、」(82頁4段28行目の(証拠・人証略))の次に「当審における控訴人本人尋問の結果により成立を認める甲第一六号証、」を、同一八丁表一行目の「証言、」(82頁4段28行目の(証拠・人証略))の次に「当審における証人味噌野清の証言、」を、同一八丁表五行目の「指揮下において、」(83頁1段4行目)の次に「現場主任として」を、同六行目の「興生建設との間に」(83頁1段5~6行目)の次に「工事の進行についての協議や調整、」をそれぞれ加え、同九行目の「玉石投入後」(83頁1段9行目)から「作業等」までを「玉石投入後、バケットですくいきれなかった石を手作業で海中に投入する作業や、右投入後の甲板に残った土砂を除去する作業等の現場作業の手伝い」に改め、同丁裏七・八行目の「とっていたこと、」(83頁1段23~24行目)の次に「控訴人は、当初、第一興生丸で作業に当たったが、同年五月九日、第二五住栄丸が船川港に到着し、二日後には第一興生丸が北海道留萌に出航したため、同月一〇日からは同港で第二五住栄丸における作業に従事し、当時はこれらの船内に寝泊まりをしていたこと」を、同一九丁表九行目の「六人であり、」(83頁2段9行目)の次に「船長が同年三月二八日、現場を離れたため、以後、控訴人が事実上船長の職務を代行することもあったこと、第二五住栄丸の乗組員は、船長、機関長、炊事係各一名、船員二名及び控訴人であり、いずれの場合も」をそれぞれ加え、同二一丁表一〇・一一行目の「搭載クレーンですくいきれなかった玉石を除去する」(83頁4段5~6行目)を「玉石の運搬、搭載クレーンによる玉石の海中への投入、クレーンですくいきれなかった小さな玉石をスコップや手で海中へ投入する」に、同丁裏一〇行目の「甲板上の」(83頁4段19行目)から同一一行目末尾(83頁4段21行目)までを「、前記玉石をスコップ等を用いて海中に投入する作業をしていた際、胸部痛を訴え、作業を中止して、前記のとおり吉川医師の診察を受けた。」にそれぞれ改め、同二二丁表七行目の末尾(83頁4段30行目の~二回)に「、当審における控訴人本人尋問の結果」を加え、同八・九行目の「甲第一三号証の一七」から(83頁4段31行目の(証拠略))「第四号証」までを「当審における証人味噌野、原審における証人山本の各証言」に改める。

5  同二二丁裏一〇行目の「(第一、二回)」(84頁1段15行目)の次に「、当審における控訴人本人尋問の結果」を加え、同一一行目(84頁1段16行目)の次に改行し、次のとおり加える。

「(4) 前掲乙第四号証、第一〇号証、原告の存在及び成立について争いがない乙第一二号証の一、二、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人は、昭和五二年五月一二日以後、船上での作業を離れたが、旅館、下宿屋に宿泊して現地に残り、船員が就労拒否した問題の解決をはかり、元請会社に対し請負代金の支払いを求めて交渉する等の仕事を果たし、同年七月一〇日ころ神戸に戻り、同月一五日神戸中央市民病院で診察を受け、同年八月八日同病院に入院し、同年九月一九日退院し、以後、週に一回程度同病院に通院を続けるなど本件疾病に対する治療に当たったこと、仕事の面では、医師から船上での作業を禁じられたため、主に事務所での事務を担当し、時に工事現場での交渉、作業員の指揮等をすることがあったこと、昭和五三年七月、出張先の留萌で本件疾病による発作を起こし、同年八月神戸中央市民病院に入院し、前記手術を受けるに至ったことが認められる。」

6  同二三丁表一〇行目の「元請企業との」(84頁1段30行目)の次に「工事の進行についての協議や」を加え、同二四丁裏四行目末尾に(84頁3段7行目)「また、控訴人の本件疾病発症後の職務は、医師による治療、指導を受けながら行われ、船上での作業を控えるなど従前より軽度なものであった。」を加え、同七行目の「したがってまた」(84頁3段11~12行目)から同二五丁表六行目末尾(84頁3段26行目)までを「同年五月一二日の本件疾病発症後も右のような業務上の過重な負荷を受けていたとは認められない。そうすると、控訴人の基礎疾患である冠状動脈硬化症は、本件疾病発症以前から相当程度進行増悪していたものであり、控訴人の職務への従事が、右疾患の自然的進行以上にこれを進行増悪させて、その結果本件疾病を発症させ、またはいっそう悪化させたものということはできない。」に改め、同八行目の「原因となっていた」の次に「とか、右基礎疾患と共働の原因になっていた」を加える。

二  以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は、理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について行政事件控訴法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石忠生 裁判官 犬飼眞二 裁判官大島崇志は、転補のため署名、捺印できない。裁判長裁判官 大石忠生)

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